「春〜spring〜」
春の陽気に誘われて、ふとこの季節を歌ったある曲のことを書いてみたいと思い立った。1990年代以降、日本のポピュラー音楽では女性ヴォーカルの周りを男性メンバーが固めた編成のバンドが数多く活躍するようになった。おそらくは80年代末に活動を始めた DREAMS COME TRUE の影響を受けているのだろうが、名前のつけ方にも何か独特の感性が見られるのが特徴である。Every Little Thing、MY LITTLE LOVER、the brilliant green、などなど…。そうしたバンドの一つに Hysteric Blue というのがある。
この Hysteric Blue を音楽シーンの最前線に押し出したのは2枚目のシングル「春〜spring〜」(1999年1月21日発売)の大ヒットだった。私はこの手の系譜のバンドにはそれほど思い入れを以て聴いたことがなかったのだけど、この「春〜spring〜」には心を揺り動かされるところがあった。メロディー・ラインの抑揚のつけ方が私の好みに合っていて、移り行く季節に揺れ動く心情が痛切に伝わってきた。ヴォーカルのTamaさんの声質も私の好みのタイプだった。途中曲が止まったかと思われるような長い音符を使ってリズムに変化を与えているあたりもうまいところだ。当時は歌詞のことはあまり気にせずに聴いていたが、今あらためて見てみると実にいい詞だと感嘆する。言葉を読んでいるだけでもこの季節特有のやや物憂くセンチメンタルな心象風景が浮かんでくる。「チクリ」、「ひらり」といった擬態語の使用も効果的である。
調べてみるとこのバンドはこの曲で1999年の紅白歌合戦に出場していたらしい。私はこの曲を紅白で聴いたという記憶が全くないので、おそらくこの年の紅白は見ていなかったのだろう。いずれにしても私と同じ様にこの曲に心を揺さぶられた人が多かったことの証である。
しかしこのバンドの栄光は長くは続かなかった。2004年にバンドのメンバーが不祥事(いや、こういう曖昧な言い方はよくないのではっきり言うと犯罪行為)を起こし解散を余儀なくされてしまったのだ。実際にはその前年から活動を停止していたようだが、これで Hysteric Blue の曲が新たに生まれることはなくなった。
このバンドが単発のヒットで終わったのは何とも残念なことだった(実際にはほかにもそれなりにヒットした曲がいくつかあったようだが)。それこそ「こういう夢ならもう一度逢いたい」ものだが…。
去年の夏だったか、高校野球を見ていたらどこかの高校のブラスバンドがこの曲を演奏しているのを聴いた時には「おや」と思ったものだった。今の高校生の部活動の現場でこの曲がタブー視されていないというのは何だかうれしかった。
現在ヴォーカルのTamaさんと「春〜spring〜」を作詞作曲したたくやさんはそれぞれ別のバンドで活動しているそうだが、ともに Hysteric Blue の栄光には遠く及ばずにいる。それでも彼らの胸の内には今もこの歌の最後の一行がこだましているだろうか…。
こういう夢だしもう一度懸けたい いつか…
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