「ブルージン・ボーイ!」
周知の通り今月16日に作曲家、音楽プロデューサーの加藤和彦さんが亡くなった。いうまでもなく加藤さんは日本のポピュラー音楽の世界に甚大な影響を与えた人なのだが、私自身の音楽体験にはあまり縁のなかった人だと思い、特にこのサイトではふれないでいた。しかし加藤さんの作品で想い出深い曲が一つあったことに気がついて、そのことを少し語ってみようと思い立った。
「ブルージン・ボーイ!」は1985年6月21日に発売された、森下恵理さんのデビュー曲である。森下さんはこの年にデビューしたアイドルの有望株の一人で、同期デビューの本田美奈子さんなどと賞レースを競い合った人である。溌剌とした元気のよさが印象的で、当時のアイドルたちの中ではやや特異な存在感のある人だったように記憶している。
この「ブルージン・ボーイ!」はそんな彼女にピッタリのノリのいい曲で、弾むようなビートと森下さんの軽快でさわやかな歌声が耳に心地よい、壮快なナンバーである。加藤さんの秀逸なポップ・センスを示す作品の一つだと思う。名曲なのか、と問われるといささか心許ないし、リアルタイムで聴いていた人が当時を懐かしんで聴く、というほかに今聴き直す意義があるのかどうかも、かなり微妙なところではある。しかしともかく、当時少年だった私が胸をときめかせて聴いていた楽曲であることは確かである。加藤さんの作品ではほかに「ドゥー・ユー・リメンバー・ミー」や「愛・おぼえていますか」なども好きなのだが、リアルタイムで聴いて想い出深い曲となると、この「ブルージン・ボーイ!」が一番である。
しかしこの人の亡くなり方が世の中に与えた影響のことを思うと暗澹とした気分になる。年間自殺者が三万人を超えている今の日本社会にあって、加藤さんのような著名人の行為が誤ったメッセージとして受け取られることは、ないとはいえないだろう。社会に与える悪影響という点では、一連の薬物事件をもしのぐものがあると思う。自分の作品を世の中に送り出すことで生きてきた人なら、そういうことも考える必要があったと思うのだが。なかなか外からは窺い知ることのできない事情のようなものもあったのかも知れないが、『ワーニャ伯父さん』に深い感銘を受けた経験のある私としては、どんなことがあってもそういう選択だけはして欲しくなかった。
まあともかく、少年の頃にこの曲から夢を与えてもらったことだけは、いつまでも記憶にとどめておきたいと思う。
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