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「すべてが変わるだろう」再び

日本語詞:岩谷時子 作詞:P. Delanoë 作曲:M. Fugain
アルバム「JUNCTION」(1994.09.24)所収。

東日本を襲った未曾有の大震災から早くも三週間あまりが過ぎた。しかし被災地では今なお苦しい避難生活を強いられていることだろう。一日も早い復興が待たれるところである。

しかしこの場合の“復興”とは、日本を元の姿にそのまま戻すということは意味しないだろう。:原子力発電所で起きている事故が、これまで私たちが享受してきた便利で快適な生活はそのリスクを一部の地域の人たちに押しつけることによって成り立っていた、という事実を否応なくあぶり出しているからだ。これ以上そんないびつな状況を放置し続けることが許される道理はないだろう。

それは単純に原子力の利用を停止ないしは抑制して従来の火力を主体とした電力に切り替えればいい、ということではない。温暖化への対策もまた同様に喫緊の課題であるからだ。代替エネルギーの技術開発はもちろんだが、過剰な電力の利用に依存した私たちの生活スタイルや価値観の見直しも必須だろう。深夜にコンビニエンスストアが煌々と灯りをつけて営業している便利さは、私たちの幸せな暮らしになくてはならないものなのか。冷え性の女性が真夏に過剰な冷房への対策に防寒用の上着を持ち歩かなければならないような状態を、“快適”といえるのか。

かねてから環境やエネルギーの問題に高い関心を寄せていた音楽プロデューサーの小林武史さんは今回の震災を受けて、環境や平和など様々な活動に携わる田中優さんと対談した。この緊急企画でもやはり、「必要なのは“元通り”にすることではなく、“よりよい仕組みを作る”こと」とテーマが設定されている。


昨年の1月に本田美奈子さんの歌う「すべてが変わるだろう」の感想を書いたが、その時「新しく生まれ変わることは避けることができない運命にあるといっていいだろう。世界も、そして私自身も」と述べたことを、今思い返している。事態がまさに切迫している中にあって、そうした認識はより多くの人に共有されてきているように見える。

このような破局的な事態に立ち至るまでそうした機運が盛り上がらなかったということには、いささか忸怩たる思いもある。2008年4月に松任谷由実さんと対談した際に「意地の悪い見方かもしれないけど、もっと痛い思いをして、悲鳴を出さないと日本は変わっていかないかなとも思います」と述べていた小林さんも、今の状況を痛切な思いで見つめているのではないかと推察する。

しかしともかく、今私たちが新しく生まれ変わるチャンスに面しているのは確かである。時間はかかっても、あの大震災を経てこんなに素晴らしく生まれかわったと犠牲者の方たちにいつか報告できる、そんな日本になって欲しい。いや、ぜひともそうしなければならない。でなければこれほど多くの喪われた生命に申し訳が立たないではないか。

あの時私は「ここに歌われているような未来への無邪気な信頼は、私の心境からはあまりにも遠く懸け離れてしまっていた種類のもの」だと述べた。しかし今、賢しらな失望や諦念などかなぐり捨てて、美奈子さんが「すべてが変る」「今夜人生 すばらしいね」とやさしく歌うこの歌に、虚心に耳を傾けたい。

記 2011.04.06

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