Top本田美奈子さん楽曲の感想 › 「the Cross -愛の十字架-」

「the Cross -愛の十字架-」

作詞・作曲:Gary Moore 日本語詞:秋元康 編曲:Guy Fletcher
シングル「the Cross -愛の十字架-」(1986.09.03)所収。現行のCD では「本田美奈子ゴールデン☆ベスト」TOCT-10912(2003.06.25)や「Anthem of Life〜Sweet Ballads Best〜」TOCT-26383(2007.10.24)などに収録されている。

本田美奈子さんは初期のアイドル時代に海外の著名なミュージシャンとのコラボレーションを果たしているが、その一つがイギリスのロック・ギタリスト、ゲイリー・ムーアさんに提供された「the Cross -愛の十字架-」である。ここでゲイリーは作詞・作曲を手がけただけではなくギターの演奏にも参加している。

ゲイリーはハード・ロックの出身ではあるがギターを“泣かせる”テクニックに定評のある演奏家のようで、ソング・ライティングにおいても哀愁を帯びたメロディーの傑作を数多く発表しているらしい。この「the Cross」も愛の悲しみを湛えた哀切なバラードに仕上っていて、ロック・ファンのみならず幅広い階層の音楽ファンにも親しみやすい作品になっている。

元々演歌歌手志望だった美奈子さんにとってもこの曲はおそらく歌いやすかったのではないだろうか。ロック特有のリズム感を要求されることもなく、演歌風の粘っこい歌い回しを生かすことのできる楽曲として美奈子さんの長所が端的に表れたレパートリーの一つだと思う。涙で湿っているかと思わせるような潤いのある歌声はまさに美奈子さんの真骨頂である。

そしてゲイリーのギターがまた曲の全編にわたって絶妙な情趣を添えている。特に曲の最後でゲイリーのギター・ソロが「Cross in the shadow...」のリフレインと絡み合うところは圧巻である。

美奈子さんのアイドル時代の楽曲には彼女のアーティスト志向を作家陣が十分にくみ取ることができていなくて美奈子さんの気合いだけが空回りしているように感じられるものが多いのだが、この曲はさすがに国際的にその名を知られるアーティストが手がけただけあって聴き応えのある作品になっている。美奈子さんのアイドル時代の最高傑作の一つだと思う。こういう作品は今聴いても古臭く感じることはない。日本ではクイーンのネームバリューは圧倒的なものがあるので美奈子さんの海外アーティストとのコラボレーションというとどうしてもブライアン・メイさんとのものが注目されがちだが、この「the Cross」のことももっと知られるようになって欲しいものである。


ゲイリーはこの曲を「Crying In The Shadows」としてセルフ・カヴァーしている。タイトルから察しがつくようにゲイリー自身による英語詞ではサビの部分のリフレインも「Crying in the shadows」となっている。日本語詞の「Cross in the shadow」というのは音節と音符の数が合っていないのでネイティヴの英語話者がこんな譜割りをするだろうかと疑問に思っていたのだが、この“cross”という言葉は秋元康さんが独自に採り入れたもののようだ。原詞には“マリア”という言葉も登場せず、そもそもは宗教性のない歌だったのだろう。十字架や聖母マリアといったキリスト教のモティーフを敢えて日本語詞に採り入れたのはおそらく海外のアーティストとのコラボレーションであることを印象づける狙いがあったのだろうと推察されるが、こうした安直さは私には正直好きになれないところではある。美奈子さんのウェットな歌声とゲイリーの咽び泣くようなギター・サウンドを思えばやはり“crying”の方がしっくりするように思うのだが…。

それはともかくこの曲が終曲として収められた1987年発表のアルバム「Wild Frontier」はロック・ファンの間で名盤として高く評価されているらしい。もちろんほとんどの人はそれが日本の女性歌手に提供されたことを知らないのだろうが、「Crying In The Shadows」は海外の音楽ファンにも広く親しまれているのだと思うと何だかちょっとうれしい気がする。

記 2008.07.06

blog latest entries

author

author’s profile
ハンドルネーム
sergei
モットー
歌のある人生を♪
好きな歌手
本田美奈子さん、幸田浩子さんほか
好きなフィギュアスケーター
カタリーナ・ヴィットさん、荒川静香さんほか