プッチーニ 『ジャンニ・スキッキ』
ツィータ | フェリシティー・パーマー |
チェスカ | マリー・マクロクリン |
マルコ | リッカルド・ノヴァーロ |
リヌッチョ | マッシモ・ジョルダーノ |
シモーネ | ルイージ・ローニ |
ネッラ | オリガ・シャラエワ |
ゲラルド | エードリアン・トンプソン |
ゲラルディーノ | クリストファー・ウェイト |
ペット・ディ・シーニャ | マクシム・ミハイロフ |
ジャンニ・スキッキ | アレッサンドロ・コルベルリ |
ラウレッタ | サリー・マシューズ |
スピネロッチョ | ヴャチェスラフ・ヴォイナロフスキー |
アマンティオ・ディ・ニコラーオ | リチャード・モスリー・エヴァンズ |
ビネルリーノ | ジェームズ・ガワー |
グッチョ | ロバート・デーヴィス |
ブオーゾ | マチルダ・ライサー |
指揮 | ヴラディーミル・ユロフスキ |
オーケストラ | ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 |
演出 | アナベル・アーデン |
二つ目の演目はプッチーニ唯一の喜劇『ジャンニ・スキッキ』。一つ目の『けちな騎士』と同じく貪欲さというテーマを扱いながら、対照的に軽快で笑いの絶えないコメディーである。
『けちな騎士』の幕切れで、息絶えた男爵の遺体の傍らから長持の鍵束を息子アルベルトが持ち去る場面を引き継ぐかのように、この喜劇の冒頭では亡くなった資産家のブオーゾを悼む親族のすすり泣きで幕を開ける。みなもっともらしくブオーゾの死を嘆いて見せるが、彼らの最大の関心事は彼の遺産の行方である。ブオーゾが遺言で遺産を全て教会に寄付しようとしていることがわかり、一同はここで初めて真の悲しみの声を上げる。知恵者のジャンニ・スキッキの力を借りて遺産を自分たちのものにしようと企むが、逆に彼の才覚の罠にはまり遺産の最もうまみのある部分を彼に取られてしまう、というのが大体のあらすじである。
ここでは人々の醜悪な金銭欲が喜劇の手法で滑稽に描かれている。その容赦のない描写は登場人物たちが哀れに思えてしまうほどである。しかしこれもまた人の心の赤裸々な真実の一面なのだろうか。
一方でこの劇には舞台となるフィレンツェへの讃歌という側面もある。フィレンツェの住人であるブオーゾの親族たちがよそ者のジャンニ・スキッキにしてやられる筋書きはこの町の人々への皮肉とも受け取れるが、アリア「フィレンツェは花咲く木のように」は心からの賛美を歌い上げている。辛辣な内容にも関わらず見ていて晴れやかな気分にさせられるのは、歴史あるこの町の賑わいが劇中にみなぎっているためだろうか。
演出のアナベル・アーデンさんは『けちな騎士』で貪欲の精を演じたマチルダ・ライサーさんに死んだブオーゾ(すなわち死体)の役を演じさせた。これがまた抱腹絶倒の演技で、死体の役でこれだけ笑わせる力量は大したものだと思う。
このオペラで最も印象的なのがアリア「わたしのお父さん」。ジャンニ・スキッキの娘ラウレッタはリヌッチョと愛を誓い合う仲。遺産奪還作戦への協力を要請されたもののリヌッチョの叔母と折り合いが悪くへそを曲げてしまった父に、懇願するように甘くやさしくこの有名なアリアを歌い上げる。少し頭の弱そうな娘という印象も与えるキャラクターなのだが、毒に満ちたこの喜劇の中の清涼剤のような存在である。
全体にはまるでドリフターズのコントを思わせるようなドタバタしたコメディーなのだが、そんな作品にもこのようなロマンティックな名旋律を書いてしまうプッチーニの才能にはただただ感嘆するばかりである。大作曲家は数多くとも、美しい旋律を生み出す才能という点ではその中でも屈指の存在だと改めて思った。
最後を飾るのは恋人たちの二重唱。遺産をめぐる生々しい駆け引きに終始したドラマも、終幕には若い二人の明るい未来を暗示して見る者に希望の光を感じさせる。ジャンニ・スキッキの奸計も彼らへの祝福のためだったのかも知れないと思わせられる。辛辣な描写ながら見終った後にはさわやかな印象を残す、巧みな構成だと思った。
グラインドボーン音楽祭 2004
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